医療法人のM&A / 持分ありと持分なし_M&Aではどちらを買収すべきか

 医療法人の買収は、医療ビジネスの拡大や経営戦略の一環として行われますが、持分の有無によって買収のプロセスやリスクが大きく異なります。持分あり法人と持分なし法人では、買収後の経営権や財産権の扱いが異なり、それぞれに特有のメリットとデメリットが存在します。本記事では、医療法人を買収する際の重要なポイントを詳しく解説します。


持分あり医療法人の買収

持分あり法人は、出資者が持分を保有している法人です。この持分は資産として計上され、買収時には大きなポイントとなります。

メリット:

  • 財産権の獲得: 持分あり医療法人の買収では、出資者が保有する持分を譲渡することにより、買収者はその法人の財産権を取得できます。これは、法人が解散する際に残余財産の分配を受ける権利を意味します。つまり、法人の資産価値が高い場合、解散時に大きな財産を得ることができる可能性があります。また、買収時にその資産が持分に応じて評価されるため、買収価格に反映されることになります。
  • 経営権の確保: 持分の譲渡によって買収者が多くの持分を取得することで、法人の経営権を強固にすることができます。これは、理事長や理事会の決定権に影響を与える可能性が高く、法人の運営方針を買収者の意向に沿って調整できるようになります。持分あり法人では、持分を保有することが実質的な経営権の掌握につながるため、買収者にとって大きなメリットとなります。

デメリット:

  • 相続税リスク: 持分あり医療法人では、持分が相続の対象となるため、出資者の死亡時に相続税が発生します。この相続税の負担が大きい場合、持分を相続する側が財政的に圧迫される可能性があり、その結果、法人経営が不安定になることもあります。また、相続人が相続税を支払うために、持分を売却する必要が生じる場合もあり、これが法人の財務状況や経営に影響を与えるリスクがあります。
  • 交渉の複雑さ: 持分の譲渡に関する交渉は複雑で、特に複数の出資者がいる場合、全員の同意を得るのは困難です。持分譲渡の条件や価格設定については、出資者ごとに異なる意見や利害が存在するため、交渉が長期化することがあります。また、出資者の一部が譲渡に反対する場合、買収自体が困難になることも考えられます。さらに、持分の評価が難しく、法的な手続きも複雑であるため、専門家の関与が不可欠です。

持分なし医療法人の買収

持分なし法人は、2007年の医療法改正以降に設立された法人で、出資者に持分がないため、公共性が強調され、解散時に財産分配が行われない特徴があります。この法人形態には以下のメリットとデメリットがあります。

メリット:

  • 安定性と公共性: 持分なし法人は、出資者に財産権がないため、相続税の問題が生じません。これにより、法人の経営が安定しやすく、長期的に安定した運営が可能です。また、持分が存在しないことで、法人の公共性が強化され、社会的信用を得やすくなります。医療法人としての社会的役割を果たしつつ、医療サービスを提供し続けることが容易になります。特に公共の利益に貢献することを目指す医療機関にとって、この安定性と公共性は大きな魅力となります。。
  • ガバナンスの透明性: 持分なし法人は、理事会の設置が義務付けられており、法人運営における透明性と公平性が確保されています。理事会が法人の運営方針を決定するため、独断的な経営を防ぎ、すべての運営プロセスが透明に行われるようになります。このようなガバナンス体制は、外部監査や第三者の評価にも耐えうるものであり、法人の健全な運営を支える重要な要素です。特に複数の利害関係者がいる場合、このガバナンスの透明性は法人の信頼性を高める要因となります。

デメリット:

  • 財産権なし: 持分なし法人の買収では、出資者に持分が存在しないため、財産権を持つことができません。これにより、法人が解散した際の残余財産を受け取る権利がありません。したがって、投資的な側面から見ると、持分なし法人には直接的な資産価値がないため、買収者にとって財務的なメリットが少ないと感じられる場合があります。解散時の利益を期待する投資家には、この点が大きなデメリットとなります。
  • 経営の制約: ガバナンスが強化されているため、持分なし法人の経営には一定の制約が伴います。理事会による合議制が基本であるため、理事長や経営陣の自由度が制限されることがあります。経営方針の決定や変更においても、理事会の承認が必要となるため、迅速な意思決定が難しい場合があります。特に、柔軟で迅速な経営判断が求められる場面では、この制約がネガティブに働くことがあります。
項目持分あり医療法人持分なし医療法人
解散時  持分を保有する出資者に残余財産が  分配される残余財産は公共目的に使用され、出資者には分配されない
相続時持分は相続対象となり、相続税が発生する持分が存在しないため、相続税の心配がない
出資者出資者は持分を保有し、財産権が認められる出資者に持分はなく、法人の財産権はない
医療法人/持分あり(旧法)・持分なし(新法)

結論

医療法人を買収する際には、持分あり法人と持分なし法人の違いを理解し、事業戦略に最も適した法人を選ぶことが重要です。持分あり法人は財産権の確保が魅力ですが、相続税などのリスクが伴います。一方、持分なし法人は安定性と透明性が強みであり、長期的な視点での経営に向いています。買収を検討する際には、これらのメリット・デメリットを総合的に評価することが求められます。

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HK

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