電子カルテを活用した経営データの作成と分析~電カルをベースにした医療DX~

 

電子カルテの普及により、単なる院内デジタル化や情報共有のための導入から、蓄積されたデータをどのように活用するか(いわゆる「二次利用」)が求められる時代になっています。さらに、IT、ICT、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)が進展する中、医療の分野でもデータの利活用が重要視されています。

DXとは、「デジタル技術を活用して人々の生活を改善し、既存の価値観や構造を根本から変革するイノベーション」と定義されており、医療界でもその必要性が高まっています。

データヘルス改革の推進

 分野における大規模なデータ活用の推進に取り組んでいます。この本部では、健康、医療、介護といった多岐にわたる分野のデータを統合し、システムの再構築を進めることで、これまでの分断された情報を一元化し、新たな価値を創出することを目指しています。

 このデータ統合と再構築の取り組みにより、いくつかの重要な分野での課題解決が期待されています。まず、予防医療の促進が大きなテーマとなっており、データを活用することで、個々の患者に最適な健康管理方法を提案することが可能になります。これにより、生活習慣病の予防や早期発見が進み、医療費の削減にも寄与することが見込まれています。

 さらに、集積されたデータを基に、新しい治療法の開発が加速することが期待されています。ビッグデータの解析により、これまで気付かれなかった疾患のパターンや治療法の有効性が明らかになり、創薬や治療法の革新につながる可能性があります。また、高齢化に伴う介護負担の増大という課題に対しても、データに基づいた効率的な介護プランの策定や、介護サービスの質の向上が期待されており、これにより介護者の負担軽減が図られるでしょう。

 このように、データヘルス改革は、予防から治療、介護に至るまでの幅広い分野で革新的な変化をもたらす可能性があり、今後の医療と介護の在り方を根本から変えることが期待されています。

病院内データの統計機能

 現代の医療機関では、電子カルテやレセプトコンピュータ(レセコン)といったデジタルツールの普及により、医療データの管理と分析がかつてないほど容易になっています。これらのシステムには、患者情報や診療記録をデジタル化して管理するだけでなく、病院経営に役立つ多種多様な統計データを抽出するための機能も備わっています。たとえば、診療の回数、患者の属性、治療の成果など、さまざまなデータを組み合わせることで、経営分析に必要なインサイトを得ることが可能です。

 しかし、これらのデータを実際に活用するためには、いくつかの課題があります。まず、統計データを正確かつ効率的に抽出するためには、システム内での条件設定が不可欠です。これは、必要な情報を得るために検索条件を細かく設定し、その条件に基づいてデータを抽出するプロセスです。この作業は一見単純に思えるかもしれませんが、実際には検索条件の設定には専門知識が求められ、データの検索とソートにも多くの時間と手間がかかります。

 さらに、抽出されたデータは、そのままでは分析に十分活用できない場合があります。多くの場合、データをエクセルやその他の統計ソフトに取り込み、再計算や再構築を行う必要があります。たとえば、単純な数値の集計だけでなく、トレンド分析や相関分析など、より高度な分析を行うためには、データの整形や加工が欠かせません。これらの作業は、医療機関の経営企画担当者にとって大きな負担となっており、日常業務の中で大きな時間とリソースを割かなければならないのが現状です。

 こうした手間を軽減し、より効率的に統計データを活用するためには、電子カルテの導入段階で統計機能に対する具体的なニーズを明確にしておくことが重要です。導入時に作成される要求仕様書(RFP)には、どのような統計データを自動的に作成するか、そのアウトプットイメージを具体的に盛り込むべきです。これにより、システム導入後の運用がスムーズになり、必要なデータを迅速かつ正確に得ることができるようになります。ベンダーに対しては、現在使用している統計資料や、今後必要となるデータの形式について明確な指示を出し、要件を満たすシステムを構築してもらうことが求められます。

 このように、統計機能を最大限に活用するためには、導入時の準備が非常に重要です。適切な準備を行うことで、電子カルテは単なる情報管理ツールから、病院経営を支える強力な分析ツールへと進化することができます。

RPAの導入による効率化

 医療機関においてRPA(Robotic Process Automation)の導入が進んでおり、業務効率化や作業の自動化が加速しています。RPAは、ロボットによってバックオフィス業務やルーチン作業を自動的に再現する技術であり、その導入によって人手に頼らずに業務を遂行できるようになります。特に、電子カルテとの連携を活用することで、これまで手作業で行われていた業務プロセスが大幅に改善され、医療現場における業務負担を軽減する効果が期待されています。

 電子カルテの操作における具体的な作業としては、患者情報の入力や更新、診療データの検索、統計データの抽出といった多岐にわたる作業が含まれます。これまでは、これらの作業を人手で行う必要があり、特に統計データの作成においては、条件設定やデータの検索、ソートなどに多くの時間と労力が費やされていました。しかし、RPAを導入することで、これらの作業を自動的に実行できるようになり、医療従事者や管理部門の業務効率が飛躍的に向上します。

 たとえば、毎月の診療実績に基づく経営分析資料の作成では、これまではデータを手作業で集計し、エクセルやその他のツールで再計算する必要がありました。しかし、RPAを導入することで、一度ロボットにその作業フローを記憶させれば、以降は同じ作業を自動的に行い、結果を迅速に出力できるようになります。これにより、ヒューマンエラーのリスクが減少し、データ処理の精度も向上するだけでなく、担当者が他の重要な業務に集中できる時間が増えるという利点があります。

 また、RPAの導入は、病院内の業務全体にわたって大きなメリットをもたらします。電子カルテの操作だけでなく、請求処理や在庫管理、患者の予約システムの管理など、繰り返し発生する多くの業務を自動化できるため、業務プロセスの効率化が図られます。これにより、病院運営の質が向上し、コスト削減やリソースの最適化が実現され、最終的には患者に提供される医療サービスの質の向上にも寄与します。

 RPAの導入は、すでに金融業界など他の分野で大きな成果を上げており、今後医療分野でもその活用範囲が拡大すると予想されています。今後は、さらに高度な業務にも対応できるRPAソリューションが開発され、病院の業務効率化に貢献することでしょう。RPAを効果的に導入・運用することにより、医療機関は持続可能な経営体制を構築し、医療の質と患者満足度の向上を図ることが可能です。

経営分析ツールの活用

 病院運営において、経営の可視化や効率化を図るために「経営分析ツール」の開発と導入が進んでいます。このツールは、病院側のニーズに応じて設計されており、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を基に、電子カルテやレセプトコンピュータ(レセコン)、さらには財務データを組み合わせた高度な経営分析が可能です。このようなツールを活用することで、病院は自院の経営状況を詳細に把握し、データに基づいた戦略的な意思決定を行うことができるようになります。

 経営分析ツールの一つの大きな利点は、診療報酬改定の影響をリアルタイムで把握できる点です。日本の医療制度において、診療報酬は定期的に見直され、その影響は病院経営に大きく反映されます。経営分析ツールを使用すれば、診療報酬改定がもたらす収入の変動を予測し、早期に適切な対応策を講じることが可能となります。これにより、病院は安定した経営を維持し、リスク管理を強化することができます。

 また、このツールを活用することで、他の病院とのベンチマークが容易になります。同規模の病院や同様の診療科を持つ病院との比較を行い、自院の経営効率や医療サービスの質を評価することができます。これにより、自院の強みと弱みが明確になり、改善点を見つけ出すことで経営の向上が期待されます。また、経年比較も可能となり、過去のデータと比較することで、診療報酬改定や経済状況の変化が経営に与えた影響を詳細に分析でき、将来の計画策定にも役立ちます。

 これらの取り組みが進んでいる背景には、政府が病院に対して診療データの提出を求める動きを強化していることがあります。診療データの提出は、医療の透明性向上や効率的な医療提供の実現に寄与するとされていますが、その一方で、病院側にはデータ提出に伴う業務負担が増加しています。そのため、経営分析ツールは、データ提出を円滑に行いながら、経営の最適化を図るための不可欠なツールとして注目されています。

 今後も、政府の施策に伴い、病院からのデータ提出の範囲は拡大していくことが予想されます。そのため、経営分析ツールは、単なる経営補助ツールとしてだけでなく、戦略的な病院運営を支える重要な役割を果たすことが求められます。これにより、医療機関は変化する環境に適応し、持続可能な医療提供体制の構築に貢献することが期待されています。

参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-jyouhouseisaku_408412.html

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HK

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